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厭味なやさしさ

「どうしてお前達は俺の仕事を増やすかねぇ、これだからアホのは組には関わりたくないんだ」

 

川西左近が、ぶつぶつぶつと厭味を言いながら後輩の手当てをしている姿を見て、伊作は心の中で笑ってしまった。乱太郎が、用具委員に工具を借りに行った際、食堂の横を通ったところ、食堂のオバちゃんに出くわして、油運びを手伝っていたところ、甕をひっくり返して油をぶちまけてしまったものだから、乱太郎は全身油まみれで、滑って竈の角で頭を打ったらしく、頭に大きな瘤を拵えて、気絶してしまった。そこに偶然通りかかったのが左近であったため、左近が手当てをしている。

油に濡れた服を着替えさせ、濡れた手拭いを瘤に当てて冷やしている。あどけない顔で眠る乱太郎の隣で、左近は「ああもう、今度こそ何かおごってもらうからな」「俺の手を患わせやがって、いい度胸だ」「お前が油をこぼしまくったせいで、しばらく炒め料理は休止だとよ。焼き豚定食が食えないじゃあないか。どうやって責任を取るんだよ」と厭味を言っていた左近であったが、次第に無口になっていった。伊作は、おばちゃんに言われて医務室へやってきたのであるが、左近が甲斐甲斐しく世話を焼く様子を見て、しばらく黙って高見の見物を決め込んだ。

 

「まあ、たんこぶと擦り傷と捻挫だからなあ、」

死ぬことはまずないだろう、と左近は言いながら乱太郎の顔をじっと見ている。おそらく彼なりに心配してはいる。ただそれが厭味の口調でしか言えない彼の所作。口調と手の動きの優しさが、何だかとてもかけ離れていて、三郎次たちとつるんでいるときの彼とはまた違って可愛らしい。「早く起きろよ、俺も暇じゃあないんだ」と言いながら、医務室使用帖に症状を細かく書き込む左近の手元を見遣り、伊作は細く微笑んだ。








 

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厭味を言いながらも世話を焼く左近でした。
何だかんだ言いながらも、見ててくれる人が好きです。
20090225

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