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バレンタインの憂鬱②

次の日、庄左ヱ門はいつも通り学校へ行き、いつもより早めに登校していた団蔵を見るなり「お前も大変だなあ」と呟いた。

「何の話だよ」

団蔵が訝しそうに眉を寄せている。

かくかく云々。文字書きというのは案外便利である。

「ふーん、何時も貰うぞ。鞄一杯」

と団蔵が何でも無いように言いのけたことに庄左ヱ門は脱力した。

成績もミジンコ並なら、神経も鈍感なのか。

「加藤君、にぶーい」

けたけたけたと同じクラスの女子連中が笑う。

「もてるのに、鈍いだなんて残酷よー」

「ほら、笹山くんは熱烈アピールしてるじゃない何時も」

「みかちゃんにね。可愛いよねぇ、兵太夫くん」

「いつも遠回りして学校の前をちょっと通ったり」

一歩間違えばストーカーものだよね、とけたけたけたと笑う隣で、団蔵が「あいつ、好きな人いるのか?」と面白そうに聞いている。庄左ヱ門は頭を抱えた。女子の話はえげつない、と心底恐怖さえ覚える庄左ヱ門だった。

「僕が何だってぇ」と噂をすれば何とやら、兵太夫が教室に入ってきた。庄左ヱ門に借りた英語の教科書を返しに来たよ、ありがとうと言って教科書を差し出した。庄左ヱ門は教科書を受け取った。

「お前、今年チョコもらえるかもよ」と、周りの男子生徒たちが冷やかす。

「ええ、それは。ないないないないない!!

と顔を真っ赤にして兵太夫は教室から一目散に逃げていった。教室からはどっと笑い声が聞こえた。

「お前等、授業だぞ」と始業のベルとともに土井先生が教室に入ってきた。

やっべえ、予習するのすっかり忘れてた、と団蔵が呟いた。

教室は椅子を引いたり、早弁を片付けたり、鞄から教科書類を出す騒音で満ちていた。

だが、地獄耳の土井先生には団蔵の独り言が聞こえていたらしい。チャイムが鳴り終わった。

「団蔵、またか」とゲンナリした土井先生は「じゃあ、教科書だけでもちゃんと読め」と指名してきた。

団蔵が、はーいと答えた後、「庄左ヱ門、号令をかけてくれ」と土井先生は言った。

「起立、礼」

「お願いしまーす」

「じゃあ、教科書の56ページを開いて。今日は古典でも皆が訳をしにくいところだ」と言いながら、白墨で黒板に大振りな字を書く土井先生の手を見ながら、1時間目が国語の授業なんてついてない、と庄左ヱ門は思った。よりによって、今日は和歌だ。庄左ヱ門は兵太夫を憐れに思った。

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