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凍える日のぬくもり

 

「やっぱり東は寒いねえ、金吾ぉ」

ひゅう、と強い風が吹くと、喜三太は首を竦めた。ナメクジさんたちは大丈夫かな、最近冬眠中でちぃ、とも動かないんだと喜三太は腰に下げている壺を見遣りながら歩いている。木の葉を踏みつける音が寂々としている。

「前を向いて歩けよ、転ぶぞ」

金吾はそんな喜三太を横目で見つつ、前に進む。伊助が用意してくれた襟巻きがありがたかった。二人は冬休みを余分に取るために、補習を受けていたので旅の準備をしてくれたのは伊助だった。彼の気配りのお陰で、食料も着るものも十分に足りている。

「やっぱり寒いよぉ、ぜんざいでも食べて温まろうよぉ」

喜三太が寒さに負けようとしている。金吾は休息が必要だなと思った。しかしこの辺りには、甘味処はない。道のりを短縮するために、街道から少し離れた獣道を歩いているからだ。この道を突っ切れば、街道を行くより3日ほど早く家に着く。街道へ戻っていたら、余計に時間を食ってしまう。金吾は喜三太にちょっと焚き火でもしようかと提案した。喜三太は、うんと肯いた。

 

河原に適当に枯葉と小枝を集めて、火を点ける。森が燃えては適わない。火が大きくならないように注意し、暖をとった。伊助が持たせてくれた干し柿が甘い。二人は腰を下ろして暫しの休息を取った。竹筒の水を飲みながら、川辺の生き物を楽しむ喜三太の隣で、金吾はもう2日歩けば風魔の里で、次の日には家に着けるだろうなあと思考をめぐらせていた。木枯らしが吹く。川の流れる音以外には、葉の擦れる音しかしない。一刻ほど過ぎたので、二人は旅を再開した。

 

「ほら、コレを懐に入れろ」

少しは寒さを凌げるぞ、と金吾が差し出したのは布に包まれた石だった。

「温石かぁ!これがあるなら早く言ってよね、本当に寒かったんだから」

さっき、荷物の確認をしたら見つけたんだと金吾は言った。

「伊助に仕度を頼んで正解だったね」

喜三太は嬉しそうに温石を懐に入れて、嬉しそうに言った。

「帰る時にお土産持って帰らなきゃねぇ、金吾」

「是、全くだ」

足取り軽く、二人は歩き出した。










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温石/onjyaku/昔の懐炉らしい。熱を持続することの出来る石だそうです。
20090221

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