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虎若は、珍しく部活と団蔵との自主トレが休みだったので、昼まで惰眠を貪った。
朝飯だか昼飯だか分からない食事をし、宿題をしようと2階へ上がろうとしたら、母からお使いを頼まれた。
「シチューの固形ルーと牛乳2本と、すき焼きのたれをお願いね。今日は、安売りなのよ」
自転車小屋へ行き、鍵を開けようと、タイヤを見ると、地面と接している部分の黒いゴムがひしゃげている。時計を見ると、午後三時。スーパーまで歩いて往復1時間弱、と見積もった。虎若は買い物を済ませてから、修理店へ行ってもまだ間に合うと思った。
小学生の時の抜け道の記憶を頼りに、スーパーまでの道を急ぐ。昔、見たことのある家と新しい家が乱立していて、多少道に迷う。幼いときに目印にしていた、クロの婆さんの家に生っている柿の木を右に曲がって、砂利道を進む。田圃道に出ると思っていたら、いきなり視界が開けて住宅地になっていた。クロの婆さんの家を見遣ると、玄関に錠がかかっており、「三芳不動産」と札がかかっていた。「そうか、あの行儀に五月蝿かった婆ちゃんは何時の間にか死んでいたのか」家の屋根には、枯れた草が生えていた。「古い家だったから、何処からか種が運ばれて、いつの間にか根付いたのだろうな」家主は居なくなっても、柿の木には実が生り、草の芽は萌え、季節は巡る。虎若は、お使いを急いだ。
小道を抜けて、大通りへ出た。久しぶりに鋪道を歩く。微かに吹く風が、頬をかすめて心地良い。人の家の庭から、垣根を越えて、白い小菊や紅葉や公孫樹が顔を覗かせている。真っ赤な紅葉を宿す家の門前は、綺麗に掃かれていて、2.3枚の葉が鋪道を彩っていた。
川辺には芒が並び、土手には枯れた草が重なり合っている。団蔵とトレーニングをしながら走ったり、遅刻を免れるために全速力で自転車を漕いで駆け抜けたりしている道だ。いつも通っている道なのに、何もかもが久しぶりだ。学校に居るときも、していない課題を休み時間にこなしたり、男同士の話で盛り上がったり、高校生は結構忙しい。すれちがう元気な子供たちに狭い道を譲りながら、腰の曲がった老人を追い越し、虎若は歩いた。さっきまで冷たかった足先が、温かい。
買い物から帰ると、母が洗濯物を取り込んでいるところだった。買ったものを配膳台の上へ置く。
「あら、意外と時間がかかったわね。幾らだった?」
「808円」
「それぐらい?もうちょっと高くかかるかと思ったけど。」
と言いながら、虎若に1000円をくれた。母は買った品物を確認している。虎若は、自転車の修理へ行ってくるからマフラーを巻きなおして玄関へ戻った。母が虎若を呼び止めた。
「この紅葉、どうしたの?」
「綺麗だったから、拾ってきた」
「そう」
「偶に、歩くのもいいね」
と虎若が言うと、「そうね」と母は応えた。
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ようやく書いた!遅くなってごめんね、若太夫!!
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