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髪_団蔵

或る女子生徒の場合

 

ねえねえ、お姉ちゃん。
男の子の髪って、面白いよね。わたし、ずっと男の子が髪にワックスを付けたのを触りたかったの。でね、この間、情報の時間に隣の加藤っていう子と話していたら、髪の話になってさ。その子はいつもワックスを付けて学校に来るんだよ。だから、「一度、ワックスを付けた男の髪っていうのを触ってみたい」って、友達と頼んだら、「いいよ」って言ってくれたの。両手で、わしゃわしゃって触ってきたよ。男の髪って、油気が無いよね。ぱさぱさしていて、堅かった。人によるんだろけど。二人で、頭をかき回したんだよ。面白かった。事情を聞いたら、加藤って少し髪質が堅くって、寝癖で跳ねるから、ワックスでちょっと癖を活かしているんだって。でね、「明日、ワックスを付けこないで、もう一度触らせて」って言ったら、ワックスを付けないで学校に来てくれたんだよ。いい人だよね。私、完全に下校時間まで忘れていたんだけど、友達が「加藤が今日はワックス付けてきてないってよ」って知らせてくれたの。「触りまぁす」って言って、わしゃわしゃわしゃって触ってきた。ちょっと嫌がっていたけどね。驚いたことに、癖毛だからワックスを付けていても付けて無くても、堅さが一緒だった。もう、爆笑。友達も、「加藤、ワックス付けても付けなくっても一緒だねぇ」って言ったら、「気分の問題だよ」ってちょっと不貞腐れていたよ。楽しかったぁ。え、高校生の特権だって?そうだね。お姉ちゃん、高校の時、男の子に興味なさそうだったもんね。大学生にそんなことしたら、お姉ちゃん、変態だよ、明らかに。まあ、とりあえず、私のやりたいことが一つ叶ったよ。加藤ってね、気さくでいい奴なんだよ。野球部で、ちょっとむさ苦しいけど。女の子達からも、かなり騒がれているみたいだけど。あ、私は気はないからね、断じて。私は、岡田君命だから。今度のコンサート、チケット取れるかなあ。でも、テスト前なんだよね。点数を取るべきか、コンサートを取るべきか、それが問題だってね。まあ、母さんが許してはくれないだろうけど。

 

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加藤の場合

 

同じクラスで割合可愛い顔をした城嶋と須崎から、髪を触らせてくれと言われた。
ワックスを付けた男の髪に興味があるらしい。変な奴等だなあと思ったけれど、別に気にはならなかったので、いいよと言った。言った途端に情け容赦なく、荒っぽく髪をぐちゃぐちゃにされた。人が、せっかく苦労して整えているのに。無礼な奴等だ。眉根を狭めると、須崎が「明日、ワックスを付けないバージョンも触らせてよ」と言った。俺は面食らった。「あ、私もお願いしたいな」と城崎が言った。綺麗な目をキラキラさせて、俺を見つめてくるものだから、俺はちょっと焦った。「別に。いいよ」と答えると、二人は喜んだ。女って、変な生き物だ。休み時間になって、金吾と虎若が俺を冷やかした。「色男の面目躍如だね」「可愛い女子のお願いは、なおざりにはできないなあ」。「別に、どうでもいいじゃないか」と言いながら、弁当を食べていたら、「よう、若旦那ぁ。高嶺の花の城嶋と須崎に迫られたんだって?」意地の悪い左吉が、廊下の窓から冷やかした。「お前の成績じゃあ、釣り合いが取れないよ」隣の伝七が黒縁眼鏡をかけて言う。なんで、隣のクラスまで知ってんだよ。俺は冷や汗をかいた。兵太夫が、俺の机に向かって突進してきた。「お前、城崎と話したのか?」そういやあ、こいつ、城崎にぞっこんだったな。一目惚れとかなんとか。事実を一通り話すと、「今度、俺を呼べ!」と一言で去った。なんて奴だ。移動教室の時に、各クラスの男どもから、不穏な視線を感じる。けれども、俺は盛大に無視することにした。前からきり丸が、片手を上げてきた。「なあ、団蔵。今度、城嶋と須崎からアポがあったら、俺に直ぐ伝えてくれ。城嶋と須崎の写真を撮らせてもらって、飢えてる男共に売って、一儲けしようと思うんだ」。それって、肖像権の侵害じゃあないかと思った。けれども眼を銭に輝かせて頼む姿に、俺はきり丸の後ろに小金の神様を見たような気がした。「いいよ」と答えるしかなかった。「さんきゅ。これで今月のバイトの心配はなくなった!」恩に着るぜと、きり丸が俺の肩を叩いた。無性に切なくなった。

次の日。城嶋と須崎との約束どおり、俺は髪にワックスを付けてこなかった。我ながら律儀だなあと思う。案の定、美人の二人は俺の髪を存分に滅茶苦茶にしてくれた後、綺麗な笑顔を残して去っていった。寸での差で、兵太夫が教室に滑り込んできて、俺を見るなり、肩を落として自分の教室に帰っていった。左吉と伝七は、やたら身なりを整えて教室に入って来て、須崎と城崎に話しかけていたけれど、あっさりすんなり帰っていった。告白するなら、すれば良いのに。厄介な奴等だ。ペーパーテスト組と入れ替わりに、きり丸がカメラを持って入ってきた。写真を売るのは本気だったらしい。「団蔵、話はついてる?」と、嬉しそうに銭に眼を輝かせる彼に俺は負けた。須崎と城嶋に、髪の代わりに写真をと頼むとあっさり了解した。「髪を触らせてくれたお礼だよ」と、言って。俺は、本当に女という生き物が分からなくなった。きり丸は、何枚か写真を撮ったあと、「毎度あり」と言って教室を去っていった。きり丸は、色々な部活を兼ねているから、あのカメラも写真部から借りてきたものだろうとは思うけれど、あの根性には本当に慣れない。でも、きり丸は嫌な奴ではない。

部活に行くと、虎若はニヤニヤしていたし、隣のサッカー部も不穏な気配だったので、早々に今日は引き上げた。今日は母さんが、とんかつだといっていたっけ。

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団蔵は鈍感で良い!
高校生の会話は、あっちこっちに飛ぶのが楽しいと思う。
電車で、びんやり聞きながら思います。

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