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「この者たちは、刀を商いしている者でございます。どうぞ、良きようにお遣いくださいませ」
そういって、足軽頭が連れてきたのは、二人の大人、とは言いがたい、青二才の二人だった。一人は、柔和な笑みを浮かべ、人並み以上に太っていた。もう一人は、痩せて小柄だった。二人は連尺を背負い、顔を上げずに、床に手を着いたまま、言った。
「某は、堺で刀屋をしております、堺の新助でございます。父の代から、堺にて商いをしておりまして、織田様、羽柴様はもとより、西は島津様、北は上杉様まで手広くお付き合いをさせていただいております。今回は、奥平様に格別のごひいきを頂き、参上いたしました」
「身どもは、捨て子だったところを新助さんのお父上に拾っていただき、丁稚をしております、治郎と申します」
足軽頭は、「以後、お見知りいただきたく存じます」というと、部屋を出て行った。
足軽頭の足音が聞こえなくなった。しばらく、経った後、新助、という太ったほうの若造が私に話しかけてきた。
「殿様、殿様は如何様な刀を御所望でしょうか」
私は、しばらく思案したように見せかけて、「ううむ」と言ってしばらく黙った。
庭には紅葉が赤くなっている。風にゆれ、苔の上に散る紅葉は、散華のようだった。
「備中直次を、尼子の棟梁に届けもらおうか」
はあ、直次ですかと新助は面を上げて、言った。柔和な笑みだった。
「ちょいとばかり、手間がかかりますよ。何しろ、珍品ですから。お高くつくと思うのですが、」
「そこのところは気にするな。私は城持だ。それぐらいの蓄えはあるさ」
失礼いたしました、と新助は頭を下げた。それまでじっと黙っていた治郎が、口を開いた。
「如何様にして、お届けなさいますか」
私は、少しばかり思案し、懐から書状を取り出した。
「この文とともに、西の尼子の配下の甘沼勝兵衛へ届けてほしい。出来る限り華美な飾りをつけ、奥平からの贈答品だとでも言えばよいだろう」
「期限は」
「うち五日の内にじゃ」
「五日ですか」
そりゃあまた早急ですねェと、のんびりとした声が新助から漏れた。
「かならず、この書状とともに刀をお贈りするのだぞ」と私は念を押した。
「何某どもは、ただ単に刀を運ぶだけ、でございます。単なる刀屋ですからねえ」
と、新助が言った。治郎は、膝を進めて、私から書状を両手で受け取った。よどみの無いしぐさが、気に入った。
「これはその刀の金だ」
私は、治郎に金の入った風呂敷を渡した。
「確かにいただきました。直次を必ずや尼子様にお届け申し上げます」
新助は、やんわりと言い、治郎とともに席を立った。
「ねえねえ、三治郎」
「こら、」
「ああ。治郎、西まで内五日、刀の用意もあるから実質三日しか時間がないよ。往復できるかな」
「・・・、新助様、僕を信じてないの」
「そんなこと無いけど」
「いつも組んでいる乱太郎が多忙だから、僕を選んだのでしょう。僕と組むの、嫌なの」
「そんなこと無いけど。三治郎、最近調子悪いでしょ、大丈夫」
「季節の変わり目だからだよ、いつものことさ」
「それなら良いけど」
「なにさ」
「三治郎は意地っ張りだね」
「ほっとけ」
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